4-8 Wonderful World (問題提起)

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200210月6日脱稿

さて、今回、そして次回にわたりまたまた予定を変更しました。というのも、「エメット・ティル・リンチ殺害事件」で問題となった人種間のセックスの問題、その事件と実は関係しているサム・クックのヒット曲のことは、ここで話した方がわかりやすい、と判断したからです。どうもすみません。

今後の予定としては、次回の更新で今回の問題提起へのわたしの解釈を説明し、その後は、50年代のロックンロール/ロカビリー/リズム&ブルーズの流行と公民権運動開始の条件となった客観的指標を整理し、その次にはいよいよ第4章、60年代に本格的に突進します。今回はその60年代の序曲。度々の変更、「実験的エッセイ」ゆえご寛恕を。

1960年2月(←これは60年代公民権運動の歴史で画期をなす時です、次章で詳述しますが日付をちょっと頭の片隅にここでおいてください)、サム・クックのヒット曲、Wonderful World がヒットチャートと上昇、R&B部門では2位、そして全体のチャート(両方とも『ビルボード』の集計)では12位になります。このページのBGMとして流れているのがその曲ですが、この歌詞は一見単純さゆえにマヌケにも見えるありふれたラブソングです。わたしがまだ大学生だったころ、レースクイーンを使ったJTの広告(たしかセーラムでした)のCMソングに使われました。わたしは初めてそれを耳にしたときイスからずり落ちてしまいました。

それはそうと、クックはそこでこう歌っています。

Don't know much about history
Don't know much about biology
Don't know much about a science book
Don't know much about the French I took
But I do know that I love you
And I know if you love me, too
What a wonderful world this would be

Don't know much about geography
Don't know much about trigonometry
Don't know much about algebra
Don't know what a slide rule is for
But I do know one and one is two
And if this one could be with you
What a wonderful world this would be

Now I don't claim to be an A student
But I'm trying to be
For maybe by being a A Student, baby
I can win your love for me

ルイ・アームストロングの名曲のひとつに"What a Wonderful World"というのがありますが、アームストロングの曲が崇高に響き、時代を超越した楽曲であるのに対し、クックの曲は、同じフレーズを使いながら、あくまでもポップ。この音を聞くと、ああ「オールディーズ」だ、と思われる方が少なくはないと思われます。つまり「古い」のがわかるのです。しかも英語の単純さといえば、ノーテンキそのもの、レベルも中学英語級です。

しかし、ここには強烈な政治的メッセージが込められていました。〈エメット・ティル・リンチ事件〉の背景をなした南部の「慣習」を参照しながら、少し考えてみてください。

クックは決して白人に媚びたアーティストというレッテルは貼られませんでした。その秘訣はこの詩に典型的に現れているのです。

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