イェー!、正義のハリケーン、イリノイ州で吹く!
藤永康政
なぜだかわかりません、たぶん世間的に「問題」をルポするというスタイルをとっているからでしょう、このコーナーの調子は暗いものでした。しかし、イェー!、正義のハリケーンがイリノイで吹きました。キリスト教の黙示録的世界観が強い影響を及ぼしていた南部公民権運動の運動家ならば"Thank Lord!"「主に感謝します」と言うかもしれません。が、わたしはここで、"Praise the Governor of Illinois, Goerge Ryan"「イリノイ州知事ライアンを讃えよ!」と叫びます。叫びます。叫びます。
TBSの6時のニュースでも紹介されていましたし、すでにご存じの方もいらっしゃると思います。しかし、本当に彼が任期中の最後に下したことはすばらしかった。その決断とは何か。171名に上る死刑囚を無期懲役に減刑すること!!!!。
そうです、このコーナーのエッセイをお読みくださっている方々はもうピンときているでしょう、彼がもし3年前のテキサス州知事だったならば、無罪の可能性の高い、獄の世界しかしらない黒人青年の死刑はなかった。でも、イリノイ州知事、ジョージ・ライアンは、シャカ・サフォアの論争などを全部踏まえた上で、イリノイ州の死刑囚に恩赦を言い渡したのです。なぜか?。それは、死刑に値するほど厳密な捜査・尋問・審理が行われたとは思えない、実際調査してみると死刑既決囚のうち3分の2が、その判決に関し、少なくとも再審をするべき根拠があった!。(言っておきます、シャカ・サフォアを殺したのはジョージ・ブッシュ・ジュニア、現大統領です。彼は「死刑」という名のもとにアメリカ史上最多の死刑執行の命令をくだした人物です。彼の州知事時代の政策はこのような「恐怖」の力を使ったものであり、それはテロ支配といっても過言ではない!)。
ライアン元知事は、しかしながら、死刑反対論者ではありませんでした。事態はその逆で、シカゴという大都市圏をかかえるイリノイ州知事選挙で、犯罪へは厳罰でもって処するという点を公約にしていたのです。ところが、イリノイ州司法省が独自の調査を行った結果、(1)過去に無罪のひとをまちがって死刑にした事実が判明、(2)現在の死刑既決囚のケースのうち、3分の2に達する数が、裁判中に公平で徹底した審理がなされたとは言い難く、またしても無実のひとを殺害する可能性がある、ということが判明しました。それで、ライアン元知事は、死刑の執行の無期延期の知事命令を出していたのです。ブッシュおぼっちゃまが死刑執行のサインを次々に書いていたのは、イリノイ州でこの「事件」が起きた頃とまったく同じだったのです。
この問題をなぜわたしが取り上げているのか?。その理由はシャカ・サフォアのエッセイの追跡報道のためだけではありません。全米の人口比と較べるならば、死刑囚のなかで黒人が占める率は異常に高いのです。そしてその傾向は変化しそうにありません。ここでもっとも新しい数字をご紹介します。2002年2月14日付けの『ニューヨーク・タイムス』の記事によると、ニューヨーク州において、連邦司法省が死刑を求刑した28のケースのうち、アフリカン・アメリカンの数は19人に達するのに対し、白人の場合はたった2名しかいないのです。そしてこの論告求刑の際の最終判断をしたのは、人種偏見をもっているとして議会での承認が難航したジョン・アッシュクロフト司法省長官なのです。
さあ、上にある写真が、171名へ特赦を与えるという声明を出したーーこの特赦への反対が高まるのを予測し、ライアン知事は、任期が切れる30分前に特赦の命令を発布しました、すばらしい政治的判断!ーーときのライアン知事です。彼の声明の音声を聞きたいかたは、ここ、をクリックしてください。
イリノイ州はトルネードが吹きまくるところで、ハリケーンが吹くことはありません。しかし、この州では、元知事の英断と政治的判断、そしてもっとも重要なことに、人間としての良心がうずいた結果、「正義のハリケーン」が吹いたのです。(なお、いわゆるG8のなかで、死刑という野蛮な刑罰をいまだに実施しているのは、合州国と日本だけです。そろそろ、人間はかならず誤る、ということを真剣に考えるべきではないでしょうか。)