黒人思潮の変化と公民権連合の構築（１）

〜大恐慌とＡ・フィリップ・ランドルフの登場

藤永康政

序

一般的に言って、公民権運動は、この1950年代中葉からマーティン・ルーサー・キング・ジュニアが暗殺される1968年までの時代にわたって展開されたものであると解釈されている。しかしながら、キングは、この狭義でいう公民権運動の開始を告げたところで、モントゴメリー・バス・ボイコットを振り返り、ボイコットが黒人の広範な支持と黒人の団結を導き出した理由を、『ブラウン』判決、つまり連邦最高最高裁判決という、黒人社会から見ると外部的な要因に還元しようとする意見を批判したうえで、さらに次のように述べている。

バスに関する抗議運動は、あたかもアテナがゼウスの神の頭からとびだしたように、はじめからすっかり成長しきった姿でとびだしてきたのではなかった。それは、ゆっくりとした発展の道をたどってやがて絶頂に達したものだった。パークス夫人が逮捕されたことは、抗議運動の原因だと言うよりも、むしろこれを促進する条件だったのだ。 [1]

1970年代以降に行われた公民権運動史の研究とは、ある意味では、この「ゆっくりとした発展の道」の研究であると言えよう。そして、これらの研究の多くが、公民権運動に連なる政治的・社会的・経済的変化の起源を、『ブラウン』判決より以前の1930年代にみとめている。この時代に、黒人は、民主党リベラル派を政治面の軸に、市民団体、労働組合を糾合した連合体を形成、最終的には1964年公民権法成立を獲得するに至る。この所謂「公民権連合」は、「ニューディール連合」と呼ばれる政治勢力と表裏一体をなすものであり、ニューディール政策に伴う連邦政府の権限が拡大された時機に、まさにその形成期がある。その後のアメリカ黒人の歴史が、一方に連邦政府、他方に南部州政府という存在の影響を強く受けながら展開されたことで、この時期は南北戦争直後を「再建期」と呼ぶことに対し、「第２次再建期」と呼ばれている。 [2]

本稿は、『地域文化研究』第11号に掲載予定の別稿（「黒人思潮の変化と公民権連合の構築（２）〜愛国的抗議としてのワシントン大行進、1942年」）と併せて、大恐慌と第２次世界大戦期における黒人指導者の問題認識の変化を検討し、その変化と後の公民権運動の展開との関連を論じることを目的としている。分析・検討の中心におかれるのが、1930年代以来、1960年代に至るまで一貫して黒人指導層を担ったＡ・フィリップ・ランドルフ（A. Philip Randolph）の問題認識と彼が指導した運動の実態である。本稿では、主に第２次世界大戦中の運動を扱う別稿に対し、本稿では、大恐慌とニューディールによる変化がアメリカの黒人の運動に及ぼした影響を論じる。さらに本稿では、20世紀の黒人の運動が1909年に設立された全国黒人向上協会（National Association for the Advancement of Colored People、NAACP）を中心に展開されてきた事実を踏まえ、ランドルフの登場の持つ意義をNAACPの状況と比較考察することで、彼が黒人指導層として認知されたことの歴史的意味を論じ、1930年代の史的位置づけに関する再考を試みる。

ところで、公民権運動を特徴の一つが、アメリカの社会運動では他に例を見ない強力な大衆動員力であろう。運動に参加した大衆の中から、公民権運動は数多くの英雄を生み出していった。モントゴメリー・バス・ボイコットの際に、ボイコットのために歩くことで疲労がたまっているのではないかと尋ねられた老婦人が「【あたし】の足はくたくたですけど、心は安らかです」と答えたというエピソードは、その後何度も語られることになった。また、1964年の民主党全国大会でミシシッピ州での投票権剥奪に関する衝撃的な証言を行った者も、高い学歴を持っているわけでもなければ、公民権運動参加以前に運動団体と関係を持っていたわけでもない黒人シェアクロッパー、ファニー・ルー・ヘイマー(Fannie Lou Hamer)であった。そして、彼女たちのような英雄をつくりだしていった公民権運動の底辺に流れる考えが、職業的活動家や知識人ではなく、市井に生きる一般の人々の姿を称揚するというものであった。 [3] アメリカの黒人の大多数がとは大半が労働者階級からなる人種集団なのであることを想起するならば、運動の指導者の側に労働者階級に対する期待と信頼なくして、人種全体を動員していくようなかかる考え方、公民権運動の大衆動員は、運動の指導者の側における、労働者階級に対する期待と信頼なくしてはあり得なかったであろう。ところが、黒人の運動指導層の思潮を見てみると、かかる考え方や運動像が歴史を通じてつねに支配的であったわけではない。ランドルフの登場に象徴される黒人指導層の交代は、黒人の運動思想における従来の方向との断絶とも言いうる変化を表しており、この変化なくしては第２次世界大戦後の大衆運動はありえなかったのである。 [4]

１）大恐慌下の黒人：「才能ある10分の１」の終焉

第１期ニューディール政策の根幹たる全国復興局（National Recovery Administration）の施策が、黒人から"Negro Removal Act"と揶揄されたことが端的に示すように、ニューディール政策は、多くの場合、黒人の経済生活のさらなる悪化をもたらした。 [5] 1933年10月には約210万人、黒人総人口の約18％が連邦の福祉救済の対象となっていたが、この数字は初期ニューディール政策の結果が明らかになった1935年１月には約350万人、黒人総人口の約30％まで上昇する。さらには、1936年以降の第２期ニューディール政策の場合も、黒人の経済状況を改善させる方向には働かなかった。全国労働関係法（National Labor Relation Act、通称ワグナー法）と社会保障法（Social Security Act）が、当時の黒人労働者の大半が従事する農業と家事労働を除外したことが主な原因で、黒人の経済生活はさらに悪化する道をたどり、ジョージア州アトランタでは総雇用人口に占める黒人人口が33.4％であるのに対し、黒人の雇用総人口の65.7％が福祉救済の対象となっていたのである。このような状況をひきだした原因は必ずしも人種差別のみに還元できるものではなく、例えば、南部都市アトランタよりは人種的により寛容であると思われるニューヨークでさえも、雇用人口に占める黒人人口比4.7％に対し、福祉救済を受けている黒人はその約2.5倍にあたる11.2％に上っていたのである。 [6]

つまり、ニューディール政策自体に人種差別的規定は存在せず、連邦の政策が経済階梯の最下層に必ずしも行き届かなかったために、これまでの人種差別故に脆弱な経済的基盤におかれていた黒人に対しこれらの政策が結果として人種差別的に働いたのである。したがって、このような状況に直面することになった下では、黒人には、産業復興のためにニューディール政策一般には賛成しつつ、黒人労働者の個別的利害を強く主張していくことが必要になっていた。ところが、黒人団体の大恐慌への対応は、積極的な組織化攻勢に乗り出し、ニューディール政策の所謂「左旋回」を導き出した「ニューディール連合」の一翼、労働組合と比較するならば、明らかに立ち遅れていた。連邦行政諸機関の叢生や、ワグナー法による労働組合の地位の確立などを通じて、アメリカ社会が急速に組織化されていく中にあって、黒人の利害を代表するべきNAACPと全国都市同盟（National Urban League、NUL）が効果的な連邦議会ロビー活動に失敗していたことの表れに、議会で黒人の利益を代表して証言に立っていたのは、ニューディール政策開始後に急遽結成された全国復興合同委員会（Joint Committee on National Recovery、JCNR）の、大学を出て間もない青年黒人、ジョン・Ｐ・デイヴィス（John P. Davis）とロバート・Ｃ・ウィーヴァー（Robert C. Weaver）の二人だったのである。 [7]

これまでNAACPやNULなどの黒人団体の特徴的方針は、黒人の中で技能と才能ある個人が先駆となって人種偏見を打破することで人種全体の向上が達成されるとするものであった。この才能に恵まれた黒人、つまり黒人の未来の希望を担う者のことを、「才能のある10分の１」と呼ぶ。 [8] 1920年代、黒人の文芸・芸術活動の奨励が、本来は人権団体であるNAACPや、社会福祉団体であるNULを通じ活発に行われていたのには、かかる運動思想的背景が存在していた。所謂「ハーレム・ルネサンス」と呼ばれるのがこの時期である。 [9] この「才能ある10分の１」の思想に拠って立つNAACPとNULは、しばしば「中産階級的団体」と言われ、肝心の黒人労働者に組織的基盤を欠いていたのである。 [10]

大恐慌は、この「才能ある10分の１」による人種問題解決策の欠陥を明示することになった。「ハーレム・ルネサンス」にはNULの機関誌Opportunityの編集者として数々の文学コンテストを主催してきたチャールズ・ジョンソン（Charles S. Johnson）は、アメリカ経済の状況が悪化の一途をたどっていた1932年に次の様に述べる。

黒人の気質は機械化の影響がもたらす堕落に抵抗することができる稀な特性を備え、黒人は人種特有のリズムを持っていると感慨にふけることはときとして愉快なことであった。．．．この激しい競争が繰り広げられている社会で存在し続けるために必要なものを得ることさえできれば、それは慰みにもなるだろう。しかし、現実は違っている。 [11]

さらに、NULの執行委員長レスター・Ｂ・グレンジャー（Lester B. Granger）は次の様に述べる。

明日を担う指導層は．．．まず最初に大衆の福祉に強調点を置く。若者の闘争は、恵まれた少数の者の特権ではなく、必要に追われている多くの人々の肉とパンの為を中心に据えることになるであろう。・・・・新しい指導層は20分の１を大切に扱い過ぎ、残りの者を飢餓に陥らせてきた人種の哲学を拒否するであろう。 [12] （傍点、筆者）

ここに「才能のある10分の１」による運動の時代は終わったのである。

２）NAACPの内部対立と改革の挫折

そこで、経済問題に対処する方向に路線を変更することがNAACPやNULの急務の課題となり、これらの団体では組織改革が模索されていくことになった。特にNAACPの場合、スコッツボロ事件を通じ、従来は専門の活動領域である人権を係争点とした法廷闘争においてアメリカ共産党から大きな挑戦を受け、状況はより深刻になっていた。 [13] そこで、NAACPは、1933年８月、デュボイスと会長のジョエル・スピンガーン（Joel E. Spingarn）の提唱により、これまでの運動の見直しの一環として、黒人青年たちの意見をNAACP幹部が非公式に聴集することを目的にし、これまでの運動の見直しとNAACPの構造改革を検討するために、1933年８月、「アメニア会議（Amenia Conference）」を開催する。 [14]

デュボイスによると、会議開催に先立ち、議題として、（１）職業と収入（Occupation and Income）、（２）人種団体（Racial Organization）、（３）人種間協力（Inter‑racial Cooperation）、の３点をが提示しされていたが、実際の議論は「経済環境と、教育と政治が経済に及ぼす影響とにほとんど限定されてしまい、人種団体の討議には時間は残らず、人種間協力に至っては実質上何の注意も払われなかった」。 [15] つまり、議論は大恐慌の影響を如実に反映する形で経済問題に集中したのであった。会議に集った黒人青年たちは、資本主義経済体制自体に疑問を持ち、改革の主体として労働組合に関心を集めていった。ところが、アメリカの労働運動が黒人の参加を拒む組合を多く抱えるアメリカ労働総同盟（American Federation of Labor、AFL）によって代表されている限り、黒人の前途は暗く、「（民主的改革を実行するためには）新しい労働運動を通じてのみ獲得することができる」と会議は合意することになった。そして、「黒人内に階級格差が存在していようとも、人種のすべての者が共通の福祉のために一致団結しなくてはならない」と、結局彼らはこの新しい労働運動の創造のために人種的紐帯による団結を主張することになったのである。 [16]

このアメニア会議の合意内容は、当時の黒人がおかれた状況と黒人の問題認識を鋭く示していると言える。ワグナー法制定以後、労働組合の社会的・政治的基盤がますます磐石になっていく中にあって、黒人は労働運動の中に何とか地歩を築こうと模索していた。ところが、労働組合の人種差別を前に真の階級的連合構築の前途は暗く、結局は、自らの視野をあくまで人種によって限定した上で、労働者階級の抱えた課題に対処する方向を採らざるを得なかった。言わば、彼らは労働者階級の利益利害を、人種の利益利害の追求によって主張していく方向を指し示したのであった。

そして、翌1934年に入るや否や、NAACPでは、団体の基本的運動方針をめぐり、結成以来最も激しい意見対立が表面化することになった。その発端となったのが1934年１月のNAACP機関誌Crisisに掲載されたデュボイスの論説である。そこでデュボイスは、「合衆国の分別ある黒人は隔離の言葉から逃げてはならない」と人種隔離の議論を切り出すした。彼は、隔離と差別とは異なるものであるとし、「純粋で単純な隔離に対する反対は決してあってはならない」と主張する。さらに翌２月には、「脇に腰掛けながら単に『隔離反対』と主張するのは馬鹿々々しい行為である」と述べ、Crisis誌上で人種隔離に関しNAACP内外の意見を交換するフォーラムの場を設けることを発表する。 [17]

デュボイスは、「隔離反対」の主張には、（１）障碍なしに黒人が向上していく機会を要求すること、（２）黒人の自分自身に対する信頼の完全なる欠如、他の集団に逃げ去ろうとする願望、黒人内の経験の欠如、堕落、無知の責任を回避しながら他の集団に受け入れてもらおうと望むこと、の２つの意味があるする。そこで、彼は、次のような「自発的隔離（voluntary segregation）」の提案を行った。

我々に可能であり且つ実行しなくてはならないこととは、それが如何に隔離を意味しようとも、我々の経済的・社会的力を自発的に、そして執拗に組織化することである。．．．消費者として我々の力を組織化し、生産者としての我々の力と機会とを用い、我々が協力していくことを学ばなくてはならない。 [18]

人種隔離政策は19世紀末に徹底されていったものであり、とりわけて1930年代に深刻な問題となってきたものではない。では、何故デュボイスはこの時点で人種隔離の問題に関する議論を始めたのであろうか。先に述べたように、アメニア会議では、新しい労働運動誕生に対する期待を表明する一方で、黒人の人種を紐帯とする連帯と黒人による自助努力を訴えていた。このような青年黒人の声が存在していたことを考えるならば、デュボイスの人種隔離の意味を問うという行為は、アメニア会議の内容を受けてのデュボイスによるNAACPの構造変革の試みとして理解され得ないであろうか。

事実、デュボイスのこのような提案に対し、アメニア会議参加者の多くが彼を支持していた。例えば、会議での議論をリードしたエイブラム・ハリス（Abram Harris）は、1934年１月にデュボイスに宛てた書簡の中で、自発的隔離の提案によって生じた論争をNAACP内の指導権争いとして明確に把握していたのであった。ハリスは、ニューディール政策開始以来の変化を「産業が永久にカルテル化されていく過程」として把握し、この過程が進行するとアメリカ社会は「ギルド社会主義化する」と認識していた。彼はまた、このようなアメリカ社会の変化を現在の黒人指導層が的確に理解しておらず、NAACP執行委員長で黒人のウォルター・ホワイト（Walter F. White）たちは「障碍となる価値観を象徴」しており、黒人知識人に新たな認識をさせようとするならば「我々は多くの人間を（NAACPから）パージしなくてはならないだろう」とデュボイスに語っていた。このように既存の運動に不満を抱くハリスにとって必要なのは新たな運動であり、デュボイスに対し「もし新たな運動が生まれることになれば、あなた以外に指導者はいない」とNAACP改革のリーダーとなるように求めていたのである。 [19]

デュボイスの自主隔離提案反対の急先鋒に立ったのが、ハリスから批判されていたＷ・ホワイトであった。彼は、隔離の意味を肯定的に捉え直そうとするデュボイスに対抗して、「分離される状況を受け入れることは、．．．国民生活、コミュニティ生活の両面に於ける明らかに劣悪な地位と劣等な施設を認めることと、精神的に萎縮してしまうことを意味する」と隔離の意味を定義している。したがって彼にとっては、「ガンと同じく、隔離はその兆候が現れたらすぐに食い止めなくてはならない」ということになるのである。さらに彼は、「NAACPの歴史的立場は創立以来今日に至るまで隔離には反対し続け、公式的立場は包括的隔離反対の立場から一歩も退いたことはなく」、２月のCrisis記事は「デュボイス博士の個人的見解に過ぎない」と述べ、デュボイスの見解に真っ向から反対する論陣を張っていたのであった。 [20]

このような議論が展開されていく中で、デュボイスはアメリカ社会にますます幻滅を強めて行った。ホワイトの記事に答える形となった４月号のCrisisで、「黒人による明白な業績と貢献とによって偏見を破ることができると、私は熱心に信じていた」と過去の自分の立場を語り、そして「これはおとぎ話である、250年か1000年後には達成できるかもしれない、しかし、今、これは真実ではない」と彼は現状の診断を下す。そして、彼が「黒人がいかなる文化、能力を持っていようとも、白人アメリカ人のほとんどは彼（黒人）を人間と見なすことはない」と主張するとき、「才能ある10分の１」がアメリカ黒人の進歩を担うとする彼自身の思想の破綻を自ら吐露することになっていたのである。 [21]

このときまでにデュボイスは、NAACP公式機関誌であるCrisisでNAACPの方針批判を展開することになっていた。恐慌下に同誌の経営が急速に悪化し、もはやNAACPの財政援助なしでは発行を続けることができなくなっていたことが、Crisis編集長デュボイスの立場をさらに悪くする。つまり、自発的隔離の是非のみならず、財政的支援を行っているNAACP理事会が持つ、Crisis記事内容の統制権問題がこの論争に絡んでいたのである。さらに、白人と間違えられるほど肌の白いホワイトを、「彼は『有色人種』ではない、彼の友人は有色人種よりは白人の方が多い」と、公然と誹謗中傷を行ってしまい、両者の確執は決定的になってしまっていた。 [22]

そして、議論は自発的隔離反対派の優勢に展開されていく。団体の実質上の決定権を握るNAACP理事会は、４月の定例集会で、「隔離決議」をまず採択した。そこでは「強要された隔離（enforced segregation）」と言う表現で、NAACPの隔離反対姿勢が確認された。続く５月の理事会では「隔離とはすべて元来強要されたものである」と改めて定義することで結果としてホワイトの姿勢を擁護する一方、NAACPの人種隔離に反対する姿勢は極めて硬直したものになっていった。このときにはさらに、NAACPの有給委員が団体機関誌CrisisでNAACPの方針に関して批判を行うことを禁止する決議が採択され、名指しは避けつつも、デュボイスの行動が公式に批判されたのである。これらの一連の決定の結果、ついにデュボイスは理事を辞任することになった。 [23]

デュボイスはNAACP創立者の一人であり、当時最も影響力のある黒人指導者であった。しかしながら、彼は、具体的なプログラムを提示することなく、黒人にとって否定的な含意が多い「隔離」という言葉の定義から改革問題を採り上げるという方法をとることによって、むしろ厳しい立場に身を置くことになってしまった。しかしながら、黒人の経済生活の悪化という事態は一向に変わっていなかったのであり、そこでNAACPは、デュボイスの理事辞任が決まった７月に、ハリスを議長に「将来の計画とプログラムに関する検討委員会（Committee on Future Plan and Program、通称ハリス委員会）」を組織し、デュボイス辞任後のNAACP改革はハリスを中心に進められていくことになった。 [24]

ハリス委員会は10月に理事会に報告書を提出、現在の法廷闘争と議会ロビー活動の他にNAACPが将来実行すべき施策として、（１）白人労働者との利害の一致を教育する労働者教育を行うこと、（２）産業別形態の労働運動を育てること、（３）切迫した問題に対処する立法を確保するために白人労働者と黒人労働者の統一的政治的行動に向けて知的基盤を整備すること、（４）全国的また地域的な労働者会議（Workers' Council）の創設を支えること、（５）労働運動の黒人差別に反対する運動の形成、（６）分離的な黒人経済にはならない形での協同組合運動について教育活動を行うこと、（７）支部を地方、州、連邦を舞台とする政治行動のセンターとすること、を提案した。自発的隔離論争を踏まえた上でのハリス委員会の提案は、上に見る通り人種横断的性格を持つものではあったが、焦点は「才能ある10分の１」の団体NAACPの活動に黒人労働者の参加を募ることにあった。そのための同委員会提案の核心となったのが、経済活動諮問委員会（Advisory Committee on Economic Activities）と、黒人労働者に発言の場を与える労働者会議の創設である。 [25]

この報告の提案について、理事会はおよそ１年にわたって討議を重ね、その中で数々の修正をハリス案に加えていった。当初提案された経済活動諮問委員会は、委員長のみを理事会が任命し、構成委員は委員長が指名し理事会の承認を得て任命するとされていたのであるが、理事会が一切の委員人事権を留保することに変更された。 [26] つまり、理事会から半ば独立した形で存在する諮問委員会を中心に、必ずしも改革に前向きとは思えない理事会に集中している権力の分散をハリス案は企図していたのであったが、その理事会の権限が直接諮問委員会に及ぶことになったのである。さらに、黒人大衆のNAACPへの参加を募り、支部活動を活性化する中心となる労働者会議の設立提案は削除され、最終的に理事会に承認された報告は、経済問題に関して言辞上の関心を払うものの、ハリス報告が当初意図した実行組織を欠くことになったのであった。その結果、ハリスは抗議の意思表示として理事を辞任することになる。 [27] これによって、労働者参加の促進を目標にしたNAACPの改革は頓挫することになった。

３）ナショナル・ニグロ・コングレス（National Negro Congress、NNC）とランドルフの登場

デュボイスがNAACPを退き運動の団体的基盤を失うのとほぼ同時に、黒人指導層の仲間入りを果たすのがランドルフである。これまでの黒人の運動の中心に立っていた者は、黒人教会や黒人大学の関係者、または法曹界出身者であった。ところが、ランドルフの支持基盤は、プルマン・ポーターの組合であり、労働運動出身という黒人指導層の中では極めて稀な経歴を持っている。それ故に、これまでの研究は、かかる労働運動家としての彼の経歴と、ロシア革命の賞賛まで行ったラディカルな雑誌Messengerの編集者であったこと、さらにはアメリカ社会党員であったことから、黒人の問題を基本的に階級の問題として認識している指導者であるとの認識にたっている。 [28] ところが、ランドルフが組織化を指導した寝台車ポーター・ブラザーフッド（Brotherhood of Sleeping Car Porters、BSCP）は、労働組合と雖も、一般の労働組合とは異なった特色を持ち合わせていた。BSCPの最大の特色とは黒人の人種意識なのである。

ところで、ランドルフが「メッセンジャー・ラディカル」と総称された集団の中心に立ち、「アメリカで最も危険な黒人」とさ呼ばれていた1920年代初頭とは、英領西インド出身の黒人マーカス・ガーヴィ（Marcus Garvey）率いる世界黒人改善協会（Universal Negro Improvement Association、UNIA）がアメリカ黒人の間で急速に支持を集めていった時代でもある。このガーヴィとランドルフの関係を見ると、ランドルフが拠って立っていたものとは、必ずしも階級的ラディカリズムだけとは限らないのである。

この当時のランドルフは、第１次世界大戦中に戦争政策を支持するために黒人の抗議運動を一時中止することを求めていたデュボイスら既存の黒人指導層批判の急先鋒に立っていた。戦後、戦争への貢献にも関わらず黒人の境遇・地位が目立って改善されない中、青年黒人を中心にデュボイスに対する批判が高まり、その批判勢力の中心になったのがランドルフと、そしてガーヴィだったのである。 [29]

マーカス・ガーヴィと言えば、「アフリカへ帰れ」のスローガンとともに、黒人の人種的団結を訴えかけたブラック・ナショナリストとして有名である。しかし、彼が第１次世界大戦休戦直後にニューヨークで結成したUNIAに集まった人物を見ると、アメリカ社会党やアメリカ共産党の黒人活動家が数多く存在し、その中には「メッセンジャー・ラディカル」も名を連ねていた。 [30] 「メッセンジャー・ラディカル」とガーヴィ主義者とを結びつけた最大の争点がアフリカの戦後処理問題であり、当時、彼らは汎アフリカン会議(Pan-African Congress)の中心に立つとともにアメリカ国務省の使節団としてパリに行くことが決まっていたデュボイスに対抗、彼ら独自の、アフリカの戦後処理問題に関連して、黒人の代議団をパリ和平会議に派遣することを目的に共に活動していた。一方、アメリカ政府は、頻繁に「革命」を口にし、NAACPなどと比較すると明らかに反体制反政府的な主張が目立つ彼らを、アメリカ政府は、一つの集団に属する反政府活動家として監視下においていた。このアメリカ政府の行動をを黒人内部の意見の相違に関する無知・無関心であったことの反映とはは必ずしも解釈できない。ず、彼らは旧来の黒人指導層に批判的であるという点で立場を同じくしていたのであり、政府諜報員の「（彼らの活動は）より保守的なリーダーからラディカルなタイプへの指導層の移行を示している」とする報告はある面での事実を伝えていると思われるのである。 [31]

その彼ら二人の運動思想に通暁する点でありなお且つ既存の黒人指導層とは異なる点が、政府諜報員の目には「ラディカル」と映った点が、黒人による意思決定を重要視する点である。黒人が要職を占める環境が不自然ではない英領西インドで育ったガーヴィは、NAACP本部を初めて訪れたとき、NAACPの要職の多くが白人によって占められていたことに強い戸惑いを感じていた。 [32] 他方、ランドルフは、NAACPを批判して次のように述べていた。

黒人でも労働者でもない人間によってNAACPは支配されコントロールされている。それ故に、NAACPが人種の代弁者として、そして偉大な労働者の一員として、社会的・政治的・経済的害悪の犠牲となっている集団の望みを語ることは全くもってして不可能である。 [33]

つまり、当時の黒人ラディカルの思想を見ると、階級的ラディカリズムと人種的ラディカリズムの間に際だった境界線は存在せず、むしろ両者が渾然一体となった形で同居していたと指摘できる。上に見るとおり、特にランドルフの場合はその傾向が強い。そして彼は、ガーヴィによる黒人の自助運動が大きなセンセーションを巻き起こし、空前の黒人大衆運動を展開した時期に、プルマン・ポーターを組織化運動を指導するようになったのである。 [34]

ところでプルマン・ポーターとはいかなる職なのであろうか。プルマン社は19世紀後半に寝台車業務を手がけることで業務を拡大し、この当時には全米の寝台車をほぼ独占していた。 [35] 寝台車の乗客に伺候することが主な業務であるプルマン・ポーターの職は鉄道労働者と言うよりもホテル労働者としての要素が強く、鉄道産業の他の職種が白人が独占しているのに対し、ポーターの職のみが黒人のほぼ独占職となっていた。 [36] そして、このようなことに至った背景には、奴隷制のプランテーションに起源を持ち、黒人を有能な召使いであると見なすステレオタイプ化されたイメージが存在していたのである。中には、プルマン会社の創始者ジョージ・プルマンが黒人を雇用したことの理由はリンカーン大統領がプルマンに黒人解放民の雇用を勧めたのだという噂まであったという。 [37] つまり、組織化運動が始まった時点で、プルマン・ポーターの職種とは人種隔離された職に他ならなかったのだ。そしてランドルフはが、「ジョージ」と言うステレオ・タイプ化された呼び名を持つプルマン・ポーターを組織化する際に、典型的には次のような言葉で、ポーター達を組織化していった。

お前が高い人種的団結を持っていることを見せるのだ。我々がどこから来ようと、我々には共通の遺産、共通の源、共通の利害、共通の敵を持っているのである。今一度、お前が精神、ガッツ、独立心と、人間としての十全性（manhood）と自由人になる意志とを持っていることを示すのだ。 [38]

ここで、ランドルフがmanhoodという言葉を用いていることは興味深い。ステレオタイプ化された黒人のイメージ「サンボ」は、黒人を「嘘つきで精神的には子供である」と見なす。ランドルフは、明らかにこのイメージを破壊することを意図していたのである。 [39] つまり、BSCPとは、通常の労働組合とは異なり、人種主義的ステレオタイプを破壊しようとする黒人の人種意識を紐帯とした団体だったのである。人種隔離された職業を基盤にしつつも、職業が持つステレオタイプに果敢に挑み、黒人ポーターの連帯の場をつくり出そうとするBSCPとは、デュボイスが語った「自発的隔離」を実践した団体であったと特徴づける言うこともできる。 [40]

このような組織的基盤を持つランドルフは、AFL内部でも、 【カラー・ブラインド】労働者としてではなく、一義的には黒人として行動していた。彼は、白人労働者と黒人労働者の利害は異なり、それ故、黒人には黒人の組織が必要であるとの見地に立っていたのである。例えば、BSCPは、白人に組合員を限定した労働組合、寝台車車掌組合（Order of Sleeping Car Conductors、OSCC）から合併の提案を受けたことがある。かつては産業別労働組合を熱烈に支持していたランドルフは、しかし、白人の組合に合併されることは黒人ポーターの利益が損なわれると考え、産別路線に添った形での合併提案を拒否したのであった。このときにランドルフはこれまで黒人を組合から排除してきたOSCCが「ポーターを一人でも組織化できるかどうか怪しいものだ」と発言しているが、これは「社会主義者」ランドルフと雖も、階級的連帯の可能性を無批判に信じてはおらず、黒人と白人の労働者の間には埋め尽くし難い不信の溝があることを前提として行動していることを示している。 [41]

1930年代中葉、19世紀末の大ストライキを強力で粉砕した歴史を持ち反組織労働の姿勢では有名なプルマン・カンパニーとの争議に勝利したランドルフは、当時、かかる黒人の人種意識を一つの紐帯とした組合を基盤に、AFL内部で独自の地歩を築きつつあった。AFLの側でも、基幹産業の黒人の組織化を積極的に押し進めていた産業別組織会議（Congress of Industrial Organization, CIO）と労働運動の激しい覇権争いを繰り広げている中、BSCPの存在は黒人社会と対話を行う上で貴重な存在であり、ランドルフはAFL内部において戦略的に重要な地位を享受していたのである。 [42] そして1934年AFL年次大会で、彼は、黒人を差別している組合をAFLから追放することと黒人の扱いに関する調査委員会の設置を要求する所謂「ランドルフ決議」の採択を要求し、決して人種平等的ではないAFLにおいて、黒人労働者の代弁者として活動を開始していた。 [43] 一方、ちょうどこのときの大会々場の周辺では、労働組合の人種差別に反対する抗議ピケが実行され、労働運動家ランドルフへの期待と支持が、黒人ポーターを越えて広がりつつあったのである。 [44]

ハワード大学社会学部とJCNRが、1935年５月、黒人の直面する問題に対処するための情報交換を行う会議をワシントンＤ・Ｃで開催したのは、このような時点であった。これを機会に、ランドルフがポーターの指導者から黒人大衆の指導者になる舞台が準備されていく。この会議で、NAACPを退いたエイブラム・ハリスやJCNRのジョン・Ｐ・デイヴィスら参加者一同は黒人諸団体の統一戦線の必要性を一致して認識し、会議終了後ラルフ・バンチ（Ralph J. Bunch）〜彼もアメニア会議の参加者であった〜の邸宅で開かれた会談において統一戦線構築に向けた作業部会が設立されることになった。そして1936年２月14日、ランドルフを会長（president）、JCNRのデイヴィスを執行委員長（executive secretary）に、既存団体の連合組織としてNNCが発足するに至った。この大会は、黒人教会からアメリカ共産党員までを糾合し、参加団体のメンバーシップの合計は120万人にのぼっていた。この創立大会の成功によってNNCは「ガーヴィ運動以来最大の黒人大衆運動の誕生」と見られたのである。 [45]

ここに至って、青年黒人から推挙される形でランドルフがNNC会長に就任したことは、黒人運動内部、とりわけ1930年代に台頭してきた層での彼の地位の確立を物語っている。そして、黒人の自助努力や人種意識に強く訴えかけていたプルマン・ポーターの組織化運動のランドルフの姿勢は、アメニア会議での青年黒人の自助努力を求める主張と符合し、NNCへ結実していったのである。ランドルフはNNC会長就任演説で語る。

黒人の救済は、労働者階級と同じく、最終的には黒人自身の中から形成されなくてはならない。 [46]

しかしながら、そもそもNNCのような団体が新たに必要とされたのは、むしろNAACPなど既存の団体が黒人労働者大衆の動員に失敗していたことの反映であると考えねばなるまい。この点は、AFLから脱退する形で誕生した産業別組織会議（Congress of Industrial Organization、CIO）が、その後、保守的と見なされていたAFLの内部改革を促し、二つの組織が激しく覇権を争う中でかつてないまでに昂揚していった労働運動とは、またしても鮮明な対照をなしている。 [47] つまり、NNCは黒人の運動が活性化した結果ではあり得ず、だからこそ既存の団体のむしろ周縁に位置しながらも組織労働に基盤を持つBSCP会長ランドルフがNNCの指導者に選ばれたのである。

この事情を映し出すように、NNCは結成大会以降黒人団体が急速に足並みを乱し、結局具体的成果乏しく衰退することになる。まずは、政治と経済の問題に拘泥していることを批判材料に、まずは黒人教会がNNCを脱退し、することになり、続いて労働運動の意義を強調し過ぎると黒人実業家団体が脱退して行った。一方、当初参加が期待されていたNAACPは、1935年12月の定例理事会で、NNC結成大会への招待に対し、統一戦線の構築提案自体が「取るに足らない」としつつ、NNCの結成の目的が「不明確である」とデイヴィスに目的の明確化を要求、最終的にはオブサーヴァーとしてロイ・ウィルキンス（Roy Wilkins）を派遣するが加盟はしないことを決定していた。 [48] NNCは黒人団体の統一戦線、つまり既存団体の連合組織であることを謳っていたのであったが、教会、黒人実業界の離反のみならず、NAACPからも積極的な支援を得ることができなかったのである。

この当時ランドルフは、統一戦線たるNNCの行動計画として「黒人の生活と運命に重大な影響を与える争点の下にパワーと大衆支持とを動員する」ことを挙げ、黒人の間で根本的意見の相違が存在していない連邦リンチ禁止法制定に向けたNAACPの議会ロビーの支援を訴えていた。 [49] しかし、ホワイト指導体制下にリンチ禁止法制定を活動の中心にすることを内部対立の結果として選択していたNAACPにとって、自らの活動領域にNNCが参加することは、たとえそれがたとえ支援であっても、「不必要な重複」と考えられてしまった。 [50] さらに、オブサーヴァーとして創立大会に出席していたウィルキンスは、連合体のまま新しい組織を形成せずに活動を実行することの困難さを指摘し、「（NNCが）NAACPに取って代わる噂が存在している」ことを気にかけていた。 [51] このような敵対的競合関係のなかでは、根本的意見が相違していない争点を見つけることすら困難になっていたのである。以後、広範な黒人大衆の参加が目的であったにも関わらず、黒人の経済環境が目立って改善されない中で集められた運動資金は、1936年から1937年の間に僅か6000ドルにしかならなず、全国組織としては活動を開始することすらほとんど不可能であった。 [52] そして、黒人の参加急減傾向が継続する一方で白人が増加し、1940年の第３回大会には参加者の３分の１がCIOを中心とする白人となり、これらがNNC内の最大派閥を構成するとともに実質上の決定権を掌握するに至った。 [53] 言わば黒人の運動が、労働運動に飲み込まれることになったのである。

このNNC第３回大会で、ランドルフは会長職の辞任を発表する。ランドルフが辞任の理由に挙げるのが、黒人の自助推進の目的とはNNCが異なった方向を歩んでいるということである。 [54] この黒人による意思決定、自助努力を重要視する姿勢こそ、1920年代以来の彼の思想を貫くものであったのだ。ところが他方で、NNCが黒人以外に援助を求めることになったのは、連合組織であるNNCを支えることが期待されていた黒人団体の足並みの乱れと、黒人大衆からの献金の停滞といった事情を反映したものであり、他に有効な代案はなかったのである。 [55]

４）終わりに〜マイノリティとしての黒人と連合の構築

1930年代のアメリカは、大恐慌による経済環境の悪化が、階級意識の成長を促したとされてきた。CIOの台頭に代表される平等主義的労働組合がそれまでのアメリカ労働運動の大きな障碍であった人種・エスニシティによる対立を乗り越え、人種横断的で戦闘的な労働運動を展開したと解釈されてきた。 [56] しかしながら、ランドルフを中心とする黒人の運動家の像は、このようなアメリカの1930年代像とは極めて異なったものである。アメリカ黒人は、1930年代でおいてでさえも、さらに言えばランドルフのような社会主義者でさえも、黒人と白人の利害は異なり、黒人には黒人による独自の運動が必要であると考えていたのである。手をとりあってピケに加わることは、黒人の自己認識自体が変化したことを意味するわけではないのである。

NNCが結成されるに至った前提とは、黒人は人種として共通の懸案・課題を抱えており、それは黒人自身の手で解決されねばならないというものであった。ランドルフは、黒人ポーター組織化のためにAFLに支援を求め加盟をしたが、BSCPの利害をあくまでも周囲の鉄道組合とは別個のものとして認識し、ほとんどが黒人であるポーターの発言権のためにBSCPの組織的独立性だけは堅持する道を選択した。彼は、様々な方面に支援を求めながらも、マイノリティである黒人がマジョリティに飲み込まれてしまわないだけの組織を持つことを第一に考えてきた。黒人の労働運動家ランドルフにとって階級意識と人種意識は二項対立ではなく、BSCPのケースではまさにこの二つがポーターたちを団結させる紐帯となりえたのである。しかし、黒人社会は階級的にも多様な側面を持ち、ポーターのような同質性を持たない集団を一つの組織に糾合していくことは人種的連帯へのアピールのみでは不可能であった。黒人実業界と労働組合の利害が一致していることは有り得なかったと言わざるを得ず、人種意識を紐帯とする団体に共通の問題でなお且つ既存の組織の対抗心を招かないものは存在していなかったのである。人種を基本的紐帯とする黒人の運動は具体的で実体のある目標が存在しないときには人種内部の非同質性を表面化させることになり、運動を維持することが非常に困難だったのだ。ここに、アメニア会議以降の黒人の運動思想の一つの特徴である、視野をあくまで人種によって限定した上で、労働者階級の抱えた課題に対処する方向の矛盾が鮮明に現れていた。

ここで一つ指摘しておかねばならないのが、ランドルフならびにアメニア会議参加者が運動構築の紐帯として人種意識を強調したこと自体は、黒人分離主義を意味しないということである。アメリカ社会から出るのではなく、その社会の中で人種利害を追求することが彼らの目標であり、黒人労働者による組織建設は、そのための手段であったのだ。エイブラム・ハリスの表現を借りれば、労働組合を中心に「ギルド化されていく」アメリカ社会の中にあって、黒人が何とか足場を確保しようとするものだったのであり、だからこそ、既にアメリカ社会の中に揺るぎない立場を確立した労働組合そのものに反対する方向ではなく、「新しい労働運動」の誕生を促す方向を選択したのである。この点において、彼らの思想は、マーカス・ガーヴィなどのアフリカ再植民を目指すブラック・ナショナリズムとは明確に異なっている。

つまり、NNCが存続発展可能な組織構築に失敗したことは、マイノリティの運動たる黒人の運動が、マジョリティとなるべく連合を構築する際のディレンマと苦悩苦しみとを表しているのであった。マイノリティたる黒人が強力な運動を築くためには、他の団体や個人からの支援・協力を確保していくのが必至とされるが、それは、少なくとも【黒人自身が認識する限り】では、黒人の声が反映し難くなる傾向を伴いがちになるのである。ランドルフに代表される1930年代の黒人の運動は、アメリカ社会に身をおきつつマイノリティの境遇の改善を要求していくものであったが、それでもなおかつ彼らの念頭にあったのは人種的利害であった。人種利害の追求、極めて強い人種意識がそのまま分離主義を意味するわけではない。しかし、周囲の状況によって、かかる思潮が分離主義に傾斜することはあり得る。この黒人の自己認識こそ、民主党リベラルや労働組合を同盟相手とする人種横断的な運動から始まった1960年代の公民権運動の中から、 【カラー・コンシャス】する「ブラック・パワー」の主張が生まれていく要因をなしたと考えられよう。

「才能ある10分の１」という言葉で表される、エリート主義的な黒人の運動は、大恐慌を境に黒人運動の指針としての有効性を著しく失っていった。ここに黒人の大多数が属する労働者階級を含めた動員、大衆運動としての黒人運動が始まったのである。この事情を象徴するのがランドルフの登場であったのだ。その後、黒人の運動は、第２次世界大戦中に大衆運動的様相をさらに強めていく。この黒人大衆の運動は、1930年代には、黒人以外の同盟相手を見いだし得ず、黒人大衆とは結局人種的マイノリティに他ならないことを露呈することになった。ところが、第２次世界大戦が始まったときに、黒人は人種集団としての自己認識はそのまま維持しつつも、国家の戦争への突入によって生じた強い愛国的感情によって孤立を破ることに成功し、内部に多様な緊張関係を持ちつつも「公民権連合」を築き上げることに成功するのであった。 [57]

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[1] マルティン・ルッター・キング（ﾏﾏ）『自由への大いなる歩みー非暴力で闘った黒人たち』（岩波新書、1959年）、78頁; Martin Luther King, Jr., Stride Toward Freedom: The Montgomery Story (Harper & Brothers, 1958), p.69.

[2] この時代規定に関しては以下を参照。C. Vann Woodward, The Strange Career of Jim Crow, rev. ed. (New York: Oxford University Press, 1954), pp.9-11; Harvard Sitkoff, A New Deal for Blacks, the Emergence of Civil Rights as a National Issue: The Depression Decade (New York: Oxford University Press, 1978), p.58. また公民権運動研究の側から、1930年代の変化を重要視する見解については、以下を参照。 Jack M. Bloom, Class, Race and the Civil Rights Movement (Bloomington: Indiana University Press, 1987), pp.69-71, p.128; Michael K. Honey, Southern Labor and Black Civil Rights: Organizing Memphis Workers (Urbana: University of Illinois Press, 1993), pp.245-278; Earl Lewis, In Their Own Interests: Race, Class, Power in Twentieth-Century Norfolk, Virginia (Berkeley: University of California Press, 1991), pp.167-198. 1970年代以後の公民権運動史研究の動向に関しては以下を参照。Steven L. Lawson, "Freedom The, Freedom Now: The Historiography of the Civil Rights Movement," American Historical Review 96 (April, 1991); 456-471.

[3] この言葉は以下の運動当事者とのインタビューを集めた本のタイトルにまでなっている。Howell Raines, My Soul Is Rested: The Story of the Civil Rights Movement in the Deep South (New York: Penguin, 1977)　またヘイマーに関しては以下を参照。Kay Mills, This Littele Light of Mine: The Life of Fannie Lou Hamer (New York: Plume, 1993).

[4] ここで本稿で用いる用語、「公民権運動」「黒人」に関して説明しておきたい。今日のアメリカ社会では、公民権運動civil rights movementという言葉は、黒人ゲットーの生活環境の改善要求のような厳密にはcivil rightsとは言えないものを焦点とした運動に対しても用いられることがあり、黒人が関係した運動を広く指示する言葉となりつつある。しかしながら、この言葉が黒人の社会・政治運動一般を指すものとして人口に膾炙し始めるようになったのは、1948年にトルーマン大統領が任命した公民権問題特別諮問委員会が報告書To Secure These Rightsを提出して以後のことである。したがって、本稿が取り扱う時代には、かかる言葉は一般的な表現ではなく、運動の当事者もこの言葉を用いてはいない。そこで、表題では後の運動の展開を踏まえ「公民権運動」という言葉を用いたが、議論の中では広く「黒人運動」、もしくは「黒人の運動」という用語を使用することにした。また、「黒人」に関して述べれば、現在のアメリカでは、「アフリカ系アメリカ人(African American)」という言葉を用いるのが一般化しつつある。ところが、在米の英領西インドの黒人に関する論考を含む本稿は、African Americanという用語を使用することができない。しかしその一方で、当時のアメリカ社会では、西インド系とアフリカ系アメリカ人とが膚の色ゆえに一つの集団を形成していたのは明白な事実である。それ故、この集団を広く指示する用語として本稿は「黒人」という用語を使用することにした。なお、現在のアメリカでも、「黒人(black)」という表現は、アフリカ系アメリカ人によって広く用いられているものであり、侮蔑的な意味あいは含まれていない。また1920年代前後の黒人知識人は、それまでのcoloredという表現を嫌い、自らのことを矜恃を込めてNegroと表現していた。この言葉は1960年代には、侮蔑的な言葉として拒否されたものであり、現在では明らかに蔑称となっている。しかし、本稿では、当時この言葉を語った者の意図を尊重し、特に人種主義的な含意を持っていない場合、blackという意味に解釈し、「黒人」と訳出した。

[5] 個々の差別の事例に関しては以下を参照。William Anderson, "The New Deal for Share Croppers," Nation 115 (February 13, 1935), pp.141-142; John P. Davis, "A Black Inventory of the New Deal," Crisis 42 (May, 1935), pp.141-42, pp.154-155; John P. Davis, "What Price National Recovery," Crisis 40 (May, 1935), pp.271-272; John P. Davis, "NRA Codifies Wage Slavery," Crisis 41 (October, 1934), pp.298-299, p.304; George Edmund Haynes, "Lily White Social Security," Crisis 42 (March, 1935), pp.85-86; Jesse O. Thomas, "Negro Workers and Organized Labor," Opportunity 12 (September, 1934), p.278; Robert C. Weaver, "A Wage Differential Based on Race," Crisis 41 (August, 1934), pp.236-237; Harvard Sitkoff, A New Deal for Blacks, pp.53-57; Harvard Sitkoff, "The New Deal and Race Relations," in Fifty Years Later: The New Deal Evaluated, ed. Harvard Sitkoff (New York: McGraw Hill, 1985), p.93; Raymond Wolters, Negroes and the Great Depression: The Problem of Economic Recovery (Westport, Connecticut: Greenwood Press, 1970), pp.3-39, pp.83-193; Raymond Wolters, "The New Deal and the Negro," The Great Depression and the New Deal, vol.6: Women and Minority During the Great Depression, eds. Melvyn Dubofsky and Stephen Burwood (New York: Garland Publishing, 1990), pp.14-61.

[6] Robert C. Weaver, "The New Deal and the Negro: A Look at the Facts," Opportunity 13 (July, 1935), pp.200-202; "A Strategy for Negro Labor," Opportunity 11 (April, 1934), pp.103-104; Charles Houston and John P. Davis, "TVA: Lily White Reconstruction," Crisis 41 (October, 1934), pp.290-291, p.311.なおデイヴィスとヒューストンの記事では以下のような主張が見られる。

　もし黒人がＴＶＡでの差別を破壊することができ、この地域の社会・経済開発で．．．黒人が充分なシェアを獲得することができるならば、彼ら（黒人）は大きく前進することができるであろう。(p.311)（傍点、筆者）

　またNAACPがNRA規約に関し、規約自体の批判ではなく、差別禁止を求める方向を採っていることに関しては以下を参照。Minutes of the Meeting of the Board of Directors, February 14, 1933; July 10, 1933; September 12, 1933, Papers of the NAACP Part I, 1909-1950: Meeting of the Board of Directors, Records of Annual Conferences, Major Speeches, and Special Reports (Frederick, Md.: University Publication of America, 1982), Reel #2. (hereafter cited as NAACPP).

[7] Sitkoff, A New Deal for Blacks, pp.47-48; Nancy J. Weiss, Farewell to the Party of Lincoln: Black Politics in the Age of FDR (Princeton: Princeton University Press, 1983), pp.67-65; Wolters, Negroes and the Great Depression, pp.110-111.

[8] この思想を代表する人物がＷ・Ｅ・Ｂ・デュボイス(W. E. B. Du Bois)である。以下を参照。John Hope Franklin, From Slavery to Freedom: A History of African Americans, enlarged 7th ed. (New York: McGraw-Hill, 1994), p.274.

[9] ハーレム・ルネサンスにおけるNAACP、NULの役割に関しては以下を参照。David Levering Lewis, When Harlem Was in Vogue (New York: Oxford University Press, 1979), pp.48-49.

[10] 例えば、当時の内務長官ハロルド・イッキーズ(Harold Ickes)が会長を務めていたこともあるシカゴのNAACPの活動は、ブリッジ・クラブやフラタニティなどの社交団体の延長線上に存在し、極めて中産階級的色彩の強いものであった。 Drake and Cayton, Black Metropolis, pp.526-563.

[11] Charles S. Johnson, "The New Frontier of Negro Labor," Opportunity 10 (June, 1932), pp.168-73.

[12] Lester B. Granger, "Step-Children of the Depression," Opportunity 10 (July, 1934), p.219.

[13] スコッツボロ事件及び共産党の黒人コミュニティ浸透に関しては以下を参照。Dan T.Carter, Scottsboro: A Tragedy of the American South, revised ed. (Baton Rouge: Louisiana State University Press, 1979); James Goodman, Stories of Scottsboro (New York: Pantheon, 1994); Robin D. G. Kelley, Hammer and Hoe: Alabama Communists During the Great Depression (Chapel Hill: University of North Carolina Press, 1990), pp.84-89; Mark Naison, Communists in Harlem during the Depression (Urbana: University of Illinois Press, 1983), pp.115-125; Drake and Cayton, Black Metropolis, pp.734-736.

[14] Minutes of the Meeting of the Board of Directors, May 9, 1932; Report of the Executive Secretary, August 15, 1932; Minutes of the Meeting of the Board of Directors, March 14, 1932, NAACPP, Reel #2.

[15] W. E. B. Du Bois, "Youth and Age at Amenia," Crisis 40 (October, 1933), p.226.

[16] Ibid., p.227.　労働組合の人種差別に関しては以下を参照。 Philip S. Foner, Organized Labor and the Black Worker, 1619-1981, 2nd ed. (New York: International Publishers, 1981).

[17] W. E. B. Du Bois, "Segregation," Crisis 41 (January, 1934), p.20; W. E. B. Du Bois, "Free Forum: The N.A.A.C.P. and Race Segregation," Crisis 41 (February, 1934), pp.52-53.　なお、本稿では、segregationに関しては「隔離」、separationに関しては「分離」という訳語を一律して用いている。

[18] Ibid., p.116.

[19] Abram L. Harris to W. E. B. Du Bois, January 6, 1936, in The Correspondence of W. E. B. Du Bois, vol.I: Selections 1877-1934, ed., Herbert Aptheker (Amherst: Massachusetts University Press, 1973), pp.472-473; B. Joyce Ross, Joel Spingarn and the Rise of the NAACP, 1911-1937 (New York: Athenaeum, 1972), p.195.なおエイブラム・ハリスは、当時ハワード大学の経済学教授であり、労働組合による人種差別に関する先駆的研究者の一人であった。以下を参照。Sterling D. Spero and Abram Harris, The Black Worker: The Negro and the Labor Movement (New York: Columbia University Press, 1931).

[20] Walter F. White, "Comments on Segregation," Crisis 41 (March, 1934), pp.80-82.

[21] W. E. B. Du Bois, "Segregation in the North," Crisis 41 (April, 1934), pp.115-116.

[22] Minutes of the Meeting of the Board of Directors, September 8, 1930; December 12, 1932, NAACPP, Reel #2; W. E. B. Du Bois, "Segregation in the North," p.115; W. E. B. Du Bois, The Autobiography of W. E. B. Du Bois: A Soliloquy on Viewing My Life from the last Decade of Its First Century (New York: International Publishers, 1968), pp.294-298.

[23] Minutes of the Meeting of the Board of Directors," April 9, May 13, June 11, July 9, 1934, NAACPP, Reel #2; Ross, Joel Spingarn and the Rise of the NAACP, pp.187-210.

[24] Minutes of the Meeting of the Board of Directors," September 10, 1934, NAACPP, Reel #2.

[25] Report of Committee on Future Plan and Program of the NAACP, 1935, NAACPP, Reel #9.

[26] Minutes of the Special Meeting of the Board of Directors, November, 24, 1934, NAACPP, Reel #2.

[27] Minutes of the Meeting of the Board of Directors, February 11, 1935; June 10, 1935, NAACPP, Reel #2.

[28] Jervis Anderson, A. Randolph: A Biographical Portrait (Berkeley: University of California Press, 1972); Paula F. Pfeffer, A. Philip Randolph: Pioneer of the Civil Rights Movement (Baton Rouge: Louisiana University Press, 1990); Herbert Gerfinkel, When Negroes March: The March on Washington Movement in the Organizational Politics (New York: Anthneum, 1969); Theodore Kornweibel, Jr., No Crystal Stair: Black Life and the Messenger, 1917-1923 (Westport, Connecticut: Greenwood Press, 1975); William H. Harris, Keeping the Faith: A Philip Randolph, Milton P. Webster, and the Brotherhood of Sleeping Car Porters, 1925-1937 (Urbana: University of Illinois Press, 1977).

[29] Mark Ellis, "'Closing Ranks' and 'Seeking Honors': W. E. B. Du Bois in World War I," Journal of American History 79 (June, 1992), pp.110-113; A. Philip Randolph, “Who Shall Pay for the War,” Messenger 1 (November, 1917), p.31; Anderson, A. Philip Randolph, pp.106-109; Kornweibel, Jr., No Crystal Stair, pp.33-34.

[30] このガーヴィ主義者と「メッセンジャー・ラディカル」との関係については以下の著書が詳しい。Judith Stein, The World of Marcus Garvey: Race and Class in Modern Society (Baton Rouge: Louisiana University Press, 1986), Chapter 3.

[31] Captain John B. Trevor to General Marlbourough, April 5, 1919, in The Marcus Garvey and the Universal Negro Improvement Association Papers, vol.1, 1916-August, 1919 (Berkeley: University of California Press, 1983), p.401; Stein, The World of Marcus Garvey, pp.46-59.

[32] E. David Cronon, Black Moses: The Story of Marcus Garvey and the Universal Negro Improvement Association (Madison: University of Wisconsin Press, 1955), pp.8-9.

[33] A. Philip Randolph, "Du Bois Fails as a Theorist," Messenger 2 (December, 1919), p.7.

[34] 1920年代、黒人人口の大規模な移住を経た後の北部都市では、黒人独自の経済圏、所謂「ブラック・メトロポリス」をつくり得るとした思想が、人口増によって興隆した黒人中産階級・実業家の間で広範な支持を得ていた。以下を参照。　Joe William Trotter, Jr., Black Milwaukee: The Making of an Industrial Proletariat, 1915-1945 (Urbana: University of Illinois Press, 1988), chapter 3; Kenneth L. Kusmer, A Ghetto Takes Shape: Black Cleveland, 1870-1930 (Urbana: University of Illinois Press, 1976), chapters 9, 10, and 11; Allan H. Spear, Black Chicago: The Making of a Negro Ghetto, 1890-1920 (Chicago: University of Chicago Press, 1967), chapters 3 and 4; Drake and Cayton, Black Metropolis, especially pp.77-97.

[35] プルマン社の歴史に関しては以下を参照。Stanley Budder, Pullman: An Experiment in Industrial Order and Community Planning, 1880-1930 (New York: Oxford University Press, 1967).

[36] Spero and Harris, The Black Worker, p.285.

[37] Anderson, A. Philip Randolph, pp.158-159.

[38] A. Philip Randolph, "The Pullman Company and the Pullman Porter," Messenger 12 (September, 1925), p.336.

[39] 黒人のステレオタイプに関しては以下を参照。George M. Fredrickson, The Black Image in the White Mind: The Debate Afro-American Character and Destiny, 1817-1914 (Hanover, NH: Wesleyan University Press, 1971); Joseph Boskin, Sambo: The Rise & Demise of an American Jester (New York: Oxford University Press, 1986); Stanley M. Elkins, Slavery: A Problem in American Institutional and Intellectual Life (Chicago: University of Chicago Press, 1959), pp.81-83.

[40] なお、モントゴメリー・バス・ボイコットの際に、ローザ・パークス逮捕後すぐさま抗議運動を組織したのが、BSCPモントゴメリー支部長でランドルフの熱烈な支持者であったＥ・Ｄ・ニクソン(E. D. Nixon)である。詳細は、King, Stride Toward Freedom, pp.44-46, pp.55-57 ; Taylor Branch, Parting the Waters: America in the King Years, 1954-1963 (New York: Touchstone, 1989), pp.128-138.

[41] American Federation of Labor, Report of the Proceedings of the Fifty-fourth Annual Convention of the American Federation of Labor (Washington, D.C.: Judd & Detweiler), p.707.　なお、近年の黒人社会史研究は、従属した地位に置かれることを意味しない限り、このときのランドルフの決断と同じく人種隔離された組合・組織を黒人労働者自らが選択したことを明らかにしている。詳細は以下を参照。　James R. Grossman, Land of Hope: Chicago, Black Southerners, and the Great Migration (Chicago: University of Chicago Press, 1989), p.8; Robin D. G. Kelley, "'We Are Not What We Seem': Rethinking Black Working-class Opposition in the Jim Crow South," Journal of American History 80 (June, 1993 ), p.97.　したがって、人種隔離を包括的に反対していくことを決定していたNAACPと比較するならば、ランドルフの立場は、黒人労働者の一般感情により近しかったと評価できるであろう

[42] Walter Galenson, CIO Challenge to AFL: A History of American Labor Movement, 1935-1941 (Cambridge, Mass.: Harvard University Press, 1960), pp.267-268.

[43] American Federation of Labor, Report of the Proceedings of the Fifty-fourth Annual Convention of the American Federation of Labor (Washington, D.C.: Judd & Detweiler, 1934), pp.254-255.

[44] Foner, Organized Labor and the Black Worker, p.206; Harris, Keeping the Faith, pp.192-193.

[45] Herbert Aptheker, ed., A Documentary History of the Negro People in the United States, vol.4: From the New Deal to the End of World War (New York: Citadel Press, 1974), p.211; John P. Davis, "A Black Inventory of the New Deal," Crisis 42 (May, 1935), p.155; "A Strategy for Negro Labor," Opportunity 12 (April, 1934), p.102; Richard Wright, "Two Million Back Voices," New Masses 18 (February 25, 1936), p.15; Wolters, Negroes and the Great Depression, p.362; Lawrence S. Wittner, "The National Negro Labor Congress: A Reassessment," American Quarterly 12 (Winter, 1970), p.884. なお従来NNCは共産主義フロントと解釈されてきていた。しかし、Wittnerの論文が指摘しているように、アメリカ共産党員がNNCの中で最大派閥となるのはNNCが組織としての影響力を実質上失い始めた1940年以後のことであり、NNCを共産党フロントとする解釈が修正を求められているのは明らかである。

[46] A. Philip Randolph, "Keynote Address," Official Proceedings of the National Negro Congress, (Washington, D.C., 1936), pp.7-12, reprinted in A Documentary History of the Negro People in the United States, vol.3: From New Deal to the End of World War, ed. Herbert Aptheker (New York: Citadel Press, 1973), pp.218-219.

[47] AFLとCIOの競合関係に関しては以下を参照。Christopher L. Tomlins, "AFL Unions in the 1930s: Their Performance in Historical Perspective," Journal of American History 65 (March, 1979): 1021-1042.

[48] Minutes of the Meeting of the Board of Directors, December 9, 1935; January 6, 1936, NAACPP, Reel #2.

[49] "Proceedings of the Second Annual Meeting of the National Negro Congress," p.263.

[50] Wolters, Negroes and the Great Depression, p.366.

[51] Roy Wilkins to Charles Houston, February 15, 1936, NAACPP, Reel #27.

[52] Wolters, Negroes and the Great Depression, p.367.

[53] Wolters, Negroes and the Great Depression, pp.362-363; Wittner, "The National Negro Labor Congress," p.899.

[54] A. Philip Randolph, "A. Philip Randolph Tells Why I Would Not Stand for Re-election as President of the National Negro Congress," American Federationist 47 (July, 1940), pp.24-25.

[55] 結成当初、黒人自身による組織建設を目的とすることに関して、ランドルフ、デイヴィスの認識の間に相違はない。Official Proceedings of the National Negro Congress, p.212, pp.218-219. したがってデイヴィスの選択は、なおさら必要に迫られてのことであったと言える。

[56] このような時代解釈に関しては以下を参照。John Higham, "Multiculturalism 　and Universalism: A History and Critique," American Quarterly 45 (June, 1993), pp.105-214. また、CIOの「偉業」に還元せず、人種・エスニック・コミュニティの1920年代の文化的変化が逆にCIOの興隆を促したとする以下の社会史・文化史の研究も、階級的運動が人種をの障碍を越えたとする基本的時代認識は変わらない。Lizabeth 　Cohen, Making a New Deal: Industrial Workers in Chicago, 1919-1939 (New York: Cambridge University Press, 1990), pp.164-165.

[57] この第２次世界大戦中の運動、連合構築の成功とその問題点に関しては、拙稿「黒人思潮の変化と公民権連合の構築（２）〜愛国的抗議としてのワシントン大行進、1942年」『地域文化研究』第11号（次号掲載予定）を参照。