オークランドの警官暴力が暗示するもの ── 「ポスト人種」時代の人種問題
2009年元旦のカリフォルニア州オークランド、サンフランシスコ=バークレー=オークランド間を結ぶ鉄道BARTの駅で、警官が無抵抗で非武装の黒人青年を射殺した。広く報道されている画像を見るかぎり、これは幾多ある警官暴力のなかでももっともひどいもののひとつだ。黒人青年は、3人警官から抑え込まれてうつ伏せになっている。その3人のなかのひとりが、ピストルを抜き背後から弾丸を撃ち込んだ。この模様を映している鉄道の乗客の携帯ビデオには、その警官の行動に対する驚きの声までも録画されている。
同地では、NAACPはもとより、市議会議員も先頭に立ち、抗議行動が行われた。自己調査をするのでその報告をまってくれと言っているBARTに件を任せた市警察に対しての抗議だ。そしてその非暴力の抗議は、7日、小さな暴動と化した。
これは1960年代後半の人種暴動や公民権運動の展開と「うりふたつ」だ。オークランドは、また、警官暴力への抗議をきっかけに結成されたブラック・パンサー党発祥の地でもある。抗議デモを行っている人のなかには、「身の回りに注意しろ、警官が近くにいる!」と皮肉を書いたプラカードを掲げているものがいたが、これはパンサー党が抗議デモで用いたものそのものである。
ところが当時とはひとつだけ大きく異なることがある。
現在のオークランド市長はロナルド・デラムス。1940年代に黒人ポーターの労働組合オルグとして社会政治活動を始め、1970年代には同市の「ブラック・パワー」のシンボルにもなった人物。さらにまた、60年代にはほとんどが白人だったオークランド警察は完全に人種統合されている。
人種は社会的構築物であるという認識が広まってから以後頻繁に言われるようになった言葉に「ポスト人種社会」という言葉がある。現代社会は、人種によって分断した社会の「後」に位置するという見方だ。
そして、バラク・オバマの当選は、ポスト人種社会の象徴とさえ思えた。
そこで起きたこの事件。
大統領は黒人である、しかし実際の現状は60年代と何らかわならい、そんな事態の展開をある面では予示しているように思える。
ただし、そんな不安を消し去ってくれるかのような状況もまた、この事件のなかでは見られた。60年代の抗議行動、その後半期になると怒りを抱えた群衆の大半が黒人だった。今回の抗議行動は完全に「人種統合」されていた。白人もまた、残忍な警官の行為に激怒していたのである。
なお、黒人を射殺した警官は、これを書いている時点では、まだ逮捕されていない。