ついに始まった、共和党お得意の白人が黒人に抱く恐怖感に訴える破廉恥なネガティヴ・キャンペーンが。
1988年の大統領選挙、10月半ばまで、当時副大統領のジョージ・H・W・ブッシュがリードしていた。ところが、ウィーリー・ホートンという名前の黒人が白人を強姦致死に至らせたことから形勢は一変する。リー・アトウォーターという政治顧問は、これをネタに、ホートンの名前と彼の仮保釈命令にサインした民主党候補マイケル・デュカキスの顔を当時最新の画像処理技術だったモーフィングをつかって巧妙に重ね合わせ、こう訴えかけた。「デュカキスへの票は、犯罪人を週末旅行に招待することにつながる」。
さて右の動画、これは数々のスキャンダルにまみれ9月にデトロイト市長を辞職したクワメ・キルパトリックとオバマを重ね合わせているものである。これは以下の点において「現実」を歪曲し、白人の深層心理にある人種恐怖に訴えているものだと判断することができる。
・オバマとキルパトリックは政治的関係はない。そもそもミシガン州では公式の民主党予備選は行われていない。同じ党に所属すれば演壇を共にすることはあろうが、これはその瞬間を過大に取り上げたものであり、キルパトリックの容疑とオバマとはまったく関係がない。
・キルパトリックの描き方、これは犯罪人の写真を撮るときに使われるアングル、マグショットを使っている。しかし彼は指名手配された重罪犯では断じてない。彼のスキャンダルは政治家の倫理に関するものだ。これは黒人=犯罪者という一般に流布したイメージを過剰に強調する、きわめて破廉恥な作為的なものだ。
ではこれがどこで流されているか?
ミシガン州デトロイト市郊外のマコム郡でである。この地は1980年にレーガン政権誕生の大きな基盤となった民主党を離反し共和党を支持した人びと、白人ブルーカラーを中心とする「レーガン・デモクラット」が多く住むところだ。過日の記事ではマケイン支持者がどこにも見あたらないという旨のことを書いたが、別にわたしはどこに彼の支持基盤があるのか知らなかったわけではない。おそらくこの辺りに存在していることは想像できる。1980年の「レーガン・デモクラット」の誕生は、「マイノリティを〈優遇〉するあまりに、われわれ労働者を見棄てた」とする感情から起きたものだった。共和党は、その感情の奥底にある人種間恐怖を煽ろうとするダーティな戦術に出た。