第1回の大統領候補討論会を観た。その素朴な感想。
1.経済問題の比重が大きい
今回の討論会は外交問題がテーマだった。それにもかかわらずはじまってから直後、全体の3分の1まで経済問題、山積する外交問題を背景に現下の経済危機にどう対処するのか、という問題に議論は終始した。オバマが「すべての政府規制は悪であるという考えが悪政の根源です」と言い放ったときには、思わずTell Like It Isと言いたくなった。なぜならばこれは日本の政治にも言えるからだ。レーガン=サーチャー=中曽根から始まる世界規模の問題である。20年もかけてたまった「ツケ」は大きい。ほら、あなたの「田舎」からも「鉄道」が消えていて、「親」が、これまでは新幹線の駅や空港までは出迎えに来てくれたものの、今後はそうもいかない、と感じている、ほらあなた、それが国鉄民営化のツケだ。
2.もうひとつのサブテクストーー世代
民主党予備選のときから、今回の選挙は、ジェンダーと人種がテクストとなりながら、それが正面から取り上げられないまま進んでいるということの奇異さについては、これまでもわたしはいろいろな場で述べてきた。今回、ジェンダー、人種とは別の問題がサブテクストにもぐりこんできた。それは世代の問題である。マケインの言い分は、咀嚼して言うとこういう事だ。「わたしは知っています、そこにも実際に行ったし、ここにも行ったその経験から言っているのですが…」。結論、「わたしの言うことを聞いていなさい、若いオバマさんは何もわかっちゃいないのです」(英語で言うと、I know that 現在完了経験)。Mr. Obama doesn't really knowということばを、パターナリスティックに何度繰り返したことか。道理で人口11万、その3万3千人が学生・大学職員という街ではマケイン支持者にあえないわけだ。このマケインというおじいさんには尾崎豊でも聴かせてみたい。
1988年、当時では大統領候補としては最年長だったジェイムス・ベーカーと、現職で「若い」大統領ビル・クリントンとの討論会をシカゴで観たことがある。その頃はインターネットの時代の草創期(最新のブラウザがネットスケープのv.2、いちばん普及しているメールソフトはEudoraだった)、「わたしのことを知りたければ」とメールアドレスを述べるベーカーの姿に、一緒に観ていた者がみな爆笑したものである。今回は爆笑するよりも、もう痛くなってきた。
そんな痛いおじいさんにオバマは正面攻撃。「問題はナンバーワン、……、ナンバーツー」と理路整然と答える姿は、奇襲も何もなく立派そのもの。もっとも2000年の大統領選挙、政策通のゴアがあまりにも仔細な政策論を展開するのでそれに有権者はうんざりしたという先例はある。しかし、選挙コンサルタントが大活躍する時代、オバマの動きがこの先例を踏まえていないということはありえない。彼らは「正攻法」を選んだのだ。
そんな周囲の人間と話しをして、こんな感じをほぼみんなが受けていた。マケインは、そのまま戦争を続けたらベトナム戦争はアメリカが勝った、と本気で思っている(これは「ネオコン」の思想の支柱でもあるのでそう驚くことではないが…)。これは南太平洋で行き場を失った「旧日本兵」と同じだ。「敗北」の認識すらできない人間が「全軍の最高司令官」なったらいたたいどうなるだろうか。
それにしても、やはりこの選挙が歴史の一幕であることはまちがいない。共和党大統領候補に「黒人」が挑む、本選挙で挑む、その「絵面」は壮観だった。また、「黒人大統領候補」が、"Thank you, University of Mississippi, Ole Miss”と述べる模様を観るのは隔世の感すらする。なお、CNNの調べで、「支持するか否かにかかわらず、この討論会を終えてオバマが勝利する」という意見にYesと答えたものは、63%に終わった。