2月29日の『ニューヨーク・タイムズ』紙が報じたところによると、ヒラリー・クリントン支持からバラク・オバマ支持に「鞍替え」しているスーパーデレゲートの数が増加しているらしい。
ニューヨーク・タイムズ社とCBSの合同調査によれば、ヒラリー・クリントンはもともとスーパーデレゲートあいだでの支持が多かったものの、オバマに対するリードは今月に入って半減、102から42まで減少している。なかにはニュージャージー州のクリスティン・サミュエルズなど、現在もNAACPで活発に活動している現役の運動家も、クリントンからオバマへ支持を変えた。
今後、黒人のスーパーデレゲートのあいだでオバマ支持に回る人間が増えることは、したがって、容易に推測できる。サミュエルズの発表のタイミングも、おそらくはオハイオ・テキサスの予備選を踏まえて行われたものであろう。
さて、ここでオバマが象徴する「ひとつになったアメリカ」について、ソフィスト的疑問が浮かんでくる。
オバマが全米に知られる政治家になったのは2006年中間選挙の際の民主党大会での基調講演である。そこで彼は独立宣言を引用し、アメリカの建国理念を高く掲げることで「キングの再来」と呼ばれるようになった。たしかに、彼は演説が、うまい。
そのキングの名句のなかのひとつが
「肌の色によらず人格によって判断」not the color of our skin but the content of our characterである。オバマもこのことばは好んで使い、彼のここまでの歴史的大健闘はアメリカの民主党員や市民がこれを実行してきたからにほかならない。
このことばは、しかし、両刃の剣である。「肌の色によらず人格によって判断」すれば、マイノリティや女性を「優遇」するアファーマティヴ・アクションは、キングの夢の実現への道ではなく、彼の遺志を裏切ることになる、そう保守派は論じるのだ。
これと同じロジックが黒人のスーパーデレゲートに圧力としてかかってくる。肌の色ではなく人格で選びなさい、そうすると「経験」がある候補の方が大統領そして軍の最高司令官にはふさわしいのでは…、と。つまり彼らは厳しいダブルバインドの状態にある。
だからこそ、ここからアメリカにおける新たな「人種」の意味が形成されてくると思わざるを得ない。