日本でも大々的に報道されたルイジアナ州の「ジェナ・シックス」事件を初め、ここのところアメリカでは黒人を対象にした「ヘイト・クライム」の増加が伝えられている。連邦司法省長官人事、さらには同省高官のセンシティヴィティを欠く発言も相俟って、司法当局の態度が厳しく問われ、今月6日には、アル・シャープトンやマーティン・ルーサー・キング3世などの公民権運動家──このような事件では「お馴染み」の面々──が、16日に、ワシントンD・Cでヘイト・クライムへの取締・捜査の徹底を要求する「巨大なデモ」を慣行するという宣言を発表した。
そのような緊張した脈絡において、アトランタにある2Pacシャクール芸術センターの外装が破壊され、「ジーナ・シックス」Jena Six 事件と同じく、この革命家の息子であるラッパーの銅像のクビに(ジム・クロウ時代のリンチを暗示する)「首つり縄」nooseがかけらえる事件が起きた。左のビデオにある通り、この事件は、したがって、当初「ヘイト・クライム」の嫌疑で捜査が進められた。
しかし、とんだ結末になってしまった。
シャープトンが宣言を発表した翌日にアトランタで逮捕された人物は43歳の黒人男性。捜査当局は「人種差別的動機はない」とすでに発表し、したがって罪状は単純な器物損壊となった。容疑者が「黒人」であるかぎり、人種主義的動機は認めようがない。
当初、荒らされた現場には「人種主義的蔑称」を記した紙片がばらまかれていると報道されていた。しかし、これも、現在さまざまな論争を呼んでいる黒人のあいだでのN-wordの日常的な使用と解釈され得る。
当初、この事件を聞き知ったとき、たいへんなことが起きたものだと思ったが、それも幸か不幸か杞憂に終わった。ただ、これが本当に深刻な「ヘイト・クライム」の捜査の妨げにならないことを祈る。