全国黒人向上協会(NAACP)をブッシュ大統領が無視し続けているのは昨日ここで報じた通りだが、それに対し、来年の大統領選挙への出馬が予測されている民主党の政治家たちは、大会が開いているデトロイトに足を運んだ。その中には、世論調査や選挙資金集めでトップ争いを激しく繰り広げているバラク・オバマとヒラリー・クリントンもいる。
しかし、民主党がかくも黒人の団体との近しさを強調するのは久しぶりのことである。実のところ、民主党は、マイノリティ利益の代弁者と目されるのを忌避し、そのような事態を避けてきた。このような政治環境は、思うに、ブッシュ政権が有能な黒人を政府の高官(たとえば、コリン・パウエルやコンドリーザ・ライス)に登用し、そうすることで「黒人」のイメージを向上させたからであろう。皮肉なことにそれは民主党の利になっているように思われる。
さて、候補者が次から次に演壇に立つ模様を報じる『ニューヨーク・タイムズ』紙の記事は、そのなかでも、オバマは「ホームゲームのアドバンテージをもっているかのような聴衆の反応を得た」と報じている。当初、彼が「黒人候補」としてみなされるかどうかが問題とされていたが、どうやらその問題は解決済みのようだ。
その演壇でオバマはこう述べたのである。
「あなたたち(黒人)の気持ちは私にはよくわかるのです。多くの進歩は確かにありました、しかしまだ多くの事が未完のまま残っています」。
それから、大学に通う年齢層のなかで、実際に大学に通っているよりも刑務施設で服役している青年黒人が多い情況を指摘し、そこからブッシュの政策を激しく批判した。ブッシュは、ついこのほど、偽証と司法妨害の罪で30か月の実刑判決がくだされた副大統領ディック・チェイニーの筆頭補佐官、スクーター・リビーに特赦を与えた。その一方で、大量に黒人青年を投獄している。なんというコントラストだというのである。
ところが、面白いことに、それでもまだオバマは黒人票の団結票をあてにはできない、油断はできないと報じられている。なぜならば、ビル・クリントンが黒人に高い支持率を誇り(ノーベル賞作家で黒人女性のトニ・モリソンは、かつて、ジャズに通じテナーサックスを吹くクリントンのことを「黒人初の大統領」と讃えたことすらある)、その「遺産」はヒラリー・クリントンに引き継がれる可能性が高いからだ。
また、『デトロイト・ニュース』紙によると、そもそもこの大会の基調演説はビル・クリントンが行うことになっており、それが突然キャンセルされたらしい。もし、これが実現していれば、クリントン夫妻が同じ演壇に立つ。それは、日本から想像すると普通にありそうだが、実際にはほとんどない機会らしい。
ところで、そのビル・クリントンの代役になったのが、先に「ニガー論争」のときにここで意見を紹介した Master P 。そういえば、この大会は、ヒップホップのネガティヴなイメージが討論の議題にするそうだ。(なお、この論争は、筆者には拙稿があります、こちらを参考にしてください)。