先週末より、デトロイトで、全国黒人向上協会 (NAACP) の全国大会が開催されている。トルーマン大統領よりはじまり、かつては大統領やその特使が参加するのが恒例であったが、それも2001年にブッシュ大統領が拒否して以来、今年もホワイト・ハウス関係者の存在はなかった。
その2001年、現会長で元学生非暴力調整委員会の運動家だったジュリアン・ボンドは、「ブッシュ政権は共和党のタリバン派(キリスト教原理主義者たち、狂信的右派の意味)と名指しで批判した。ところが、9・11直後のアメリカ社会の右傾化と、2004年大統領選挙の結果や国税庁による特別捜査の開始などを受け、公民権運動との関係のない実業界から執行委員長を選ぶなど、一時期はブッシュの方針に妥協するかのような姿勢をみせた同団体も、昨年の民主党の躍進、そしてブッシュへの支持率の低迷を受け、再度ボンドは、現職大統領への猛烈な批判を開始した。
まず、彼は統計上の実数値から実情を説明する。「今日、黒人のなかで4分の1が貧困ラインの下での生活を強いられています、白人のそれは、しかし、わずか 8.6 %なのです」。この事実をもとに、人種主義は過去のものだとする意見を批判し、人種主義の「蓄積的効果」の結果、現在の黒人の苦境が存在している、と語る(なお、これは、昨年 アメリカ歴史学の学術誌、Journal of American History に掲載された Michael B. Katz らの論文 "The New African American Inequality"の趣旨と同様のものであり、ボンドは明らかにこの論文から影響を受けているように思われる)。
そして、すぐ前に下された連邦最高裁の判決を批判し、「ブッシュによって任命された判事が牛耳る最高裁が黒人の子供たちを法の保護の外においたのです」と批判のトーンをあげた。そもそもブラウン判決の主役となった NAACP が、その判決の趣旨を覆す判決を批判するのは至極当然のことである。NAACP がブッシュ政権と激しい対立関係になっていることを考えると、これは何も不自然なことではない。
この判決については、これからもここでいろいろな余波を紹介していくことになるであろう。さて、ボンドがこの声明を発している傍ら、ワシントンD・Cの伝統的黒人大学ハワード大学で開催された民主党大統領予備選への立候補が見込まれているものたちのディベートが行われていた。そこで、バラク・オバマは、「彼ら (NAACP の弁護団) がいなかったとしたら、私がこの場に立っていることなどなかったでしょう」と、ケニヤ人とアメリカ白人のあいだに生まれた自分をしっかりとアメリカ黒人の歴史のなかに位置づけ、そうすることによって自分のアイデンティティはアフリカン・アメリカンにあるなのだという発言を行った。そして、人種を考慮に入れる政策の継続を訴えた。ボンドよりも物腰は柔らくても、最高裁の判決を批判している。