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ヒップホップと「黒人」大統領候補

20070510snoop.jpg既に各種のメディアが報じている通り、2008年大統領選挙では、人種的には「黒人」に属しているバラック・オバマ上院議員が民主党の最有力候補として浮上してきている。ここで私は「黒人」、と、カッコつきで彼の人種的アイデンティティを記したが、簡単にその理由を説明しよう。

 彼の父親はケニア人、母親はヨーロッパ系アメリカ人である。その後、父親はケニアに帰国し、オバマはハワイで育った。ハワイと言えば、アジア系の人口比率も高く、彼が育ったのは「黒人ゲトー」ではない。さらには、その後の彼はハーヴァード大学ロースクールに進学し、シカゴ大学ロースクールで教鞭を執った。つまりある意味においてエスタブリシュメントの一員である。もっとも、シカゴ時代に、極めて献身的法律家として市民運動を支援したというキャリアはもっているものの、彼のキャリアはそれまでの黒人政治家と大きく異なる。そんな彼は、ヒップホップ・アーティストの語彙を批判することで、ヒップホップ界の重鎮、ラッセル・シモンズと対立することになった。

奇妙なことに、その論争の発端は、白人のトークショー・ホスト、ドン・アイムズが放った、おぞましい発言にある。アイムスは、多くが黒人女性のプレイヤーからなるルトガース大学のバスケットボールチームを形容し、「ちりちりの毛をした売女の軍団」"kinky-haired bunch of ho"と語った。これがネットワークテレビに流れてしまい、公民権運動家・黒人政治家の猛烈な抗議のなか、数々のネットワークテレビが彼との契約を破棄することになった。

これより以前、バスケットボールチーム関係で言えば、シカゴ・ブルズが全盛だった1990年代中頃、ネットワークテレビのスポーツ解説者が「黒人はバスケットボールが得意だ、なぜなら腰の位置が高い、そうしたのも棉畑で良い労働者になるように白人主人が奴隷を「交配」したからだ」といった発言を行い、同じく喧々囂々の抗議のなか解雇されたということがある。

しかし、このとき、そのスポーツ解説者の発言を聞き、「あぁ、そうだね、黒人は腰が高いね」などと言う「黒人」はいなかった。ところがこの度は、バラック・オバマがドン・アイムスの意見には一理がある、という発言を行ったのである。

オバマは、「「ちりちりの毛をした売女の軍団」という発言を非難するには、同じ言語を使用しているヒップホップの歌詞を非難しなくてはいけない」と語っている。さらに彼はこう言う。

「黒人たち自信が認めなくてはなりません、「売女」"ho"という言葉を聞いたのはこれが初めてのことではないということを。ラジオのスイッチを入れてください。同じ言語を使っている歌の数は夥しいし、そのような歌が家の中、学校の教室、iPodのなかで流れるのを許しているではないですか」。

このようなオバマの発言は、当然、ヒップホップ世代の批判の対象になった(このヒップホップ世代対公民権世代の社会認識に関しては、ついこのほど、筆者は最初の試論を著した)。デフ・ジャム・レーベルの創始者、ラッセル・シモンズが言うには、「そもそもそのような言葉を発しなくてはならない環境の改善を考えるのが政治家の仕事ではないか、ラップの歌詞を批判するのはやめてくれ」となる。

さらには、"ho"という言葉を連呼することでは、おそらく悪名高いラッパーのひとり、スヌープ・ドッグはこう言う。

「全然背景が違うじゃないか、教育やスポーツで成功し、高いステージに昇った女学生のことを俺たちがそう呼んでいるのではない。俺らは街角でやばいことばかりやっている奴らのことを"ho"と呼んでいるんだ。ニガを見ると金をぶんどることしか考えないバカ女のことを言っているんだ」。

ここでわたしは「ニガ」という言葉を使った。これは原文では"n.-a"と記されている。さて、かかる婉曲語法を使って何が起きるだろうか…。

その後、シモンズは、オバマへの批判を和らげ、いわゆる「Nから始まる言葉」や"ho"といった言葉を、レコード会社が自主的に規制し、ラジオ局は「ピー」という音で消すように提言している。これでこの言葉が消えるだろうか。この言葉が極めて攻撃的な侮蔑的言葉として、その毒牙が「ピー」で消えるのだろうか?。わたしはそう思えない。

既発表の論文で引用したばかりだが、その昔、2Pacはこう断言した。

「ニガーNiggerとは首にロープを巻かれて木から吊される奴ことだ。俺はニガNigga。ニガの首には純金のネックレスがぶらさがっている」。

2Pacの大胆な姿が恋しい。

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2007年05月10日 22:56に投稿されたエントリーのページです。

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