先週の土曜日、ロサンゼルス郊外の刑務所で始まった黒人とラティーノのギャング抗争を発端とする暴動は、当局の努力もむなしく、世界最大規模のロサンゼルス郡他の刑務所に飛び火し、いま現在も続いている。
郡の刑務所が厳戒態勢で警備を続けるなか、抗争のニュースは、60年代後半の刑務所蜂起と同じく、grapevineを通じて伝わっているようだ。
そしてまた、ある研究者が「監獄・産業複合体」prison-industrial complexと呼んだ、この国の刑務所の異常な「活況」ぶりが、暴動を悪化させているようである。
ロサンゼルス郡の刑務所人口は、恐ろしいことに、2万1000人に達する。しかし、個室の部屋は約1000ほどしかなく、激高した服役囚をわけて収容しようにもそうできる空間がないのである。
また、このブログでもたびたび触れてきた〈人種〉内部の問題が、問題をさらに複雑にしている。
多くの犯罪学の調査では、服役囚のアイデンティティは、民族的出自や言語より、肌の色、一般的に理解される〈人種〉によって一義的に決定されるとされてきた。たとえば、ホンジュラス系など、国勢調査ではラティーノ(ヒスパニック)に算入されるが、肌の色が黒いアフリカ系が多く、アフリカ系のホンジュラス出身者は、刑務所では「黒人」というアイデンティティを持つことになるというのである。
ところが、現行の刑務所システムは、国勢調査でお馴染みの6つの〈人種〉ーー人種のペンタゴンーーしか認知しない。
この暴動は、ロサンゼルス市におけるチカノ系ギャングとアフリカン・アメリカン系ギャングの抗争が発端となって起きた。「娑婆」での仕返しとばかり、チカノ系の服役囚がアフリカン・アメリカンの服役囚に暴行を加えたのである。
こうした場合、刑務所は、ラティーノと黒人とを隔離させようとする。ここで問題が起きた。
(1)まず先述のように、「隔離」と呼べるほどの距離が確保できない、空間の問題
(2)首尾よく「隔離」が上手くいっても、今度はラティーノ内部での〈人種〉対立が起きる。ラティーノは言語を紐帯とする民族・文化集団であり、〈人種〉集団ではない。
さらに事態を悪くすることに、カリフォルニア州は、機械による巨大な一望監視システム、あのパノプティコンを現実に構築する一方、財政難から刑務所に配備される警備員を減少させた。機械では判断しがたい状態に、したがって、応えられる人材が不足したのである。
ハリウッド製の映画ならば、ここでシュワルツネッガー知事がさっそうと登場することだろう。彼が死刑の署名を行ったが故にこの世から抹殺されたトゥーキー・ウィリアムスは、若いギャングと語り合う言語と「顔」を持っていたが、知事にはそれすらない。
トゥーキーが生きていたら、何と言うだろう?