2月28日のことになるが、世界でもっともホットなヒップ・ホップ局、ニューヨークのHot 97で銃撃戦があった。
ロサンゼルスのサウスセントラル地区コンプトン(映画Menace II Societyがモデルとした黒人ゲトー)出身で、全米に名を馳せているギャング、Cripsのメンバー(Snoopy Doggy Doggもかつてはメンバーだった)だった50 Centが、ニューヨークのブルックリン・ベットフォード・スタイヴザント地区(スパイク・リーの数多くの映画のモデルとなっている地区)でドラッグ売人だった経験をもつthe Gameを、同局放送のインタービューで酷評した。それに怒ったthe GameのガードマンのひとりがHot 97に殴り込み。待ち受けていた50 Centのガードマンたちから銃撃される。
その後、今度は、50 Centのエージェントに銃弾が撃ち込まれる事件が起きた。
ニューヨーク地方紙はRap War Broke Out!などとセンセーショナルな見出しで大々的にこれを報道した。
すくなくとも過去10年間、ヒップホップシーンを追いかけているものならば、ここで思い出すことがあるだろう。コンプトン対ブルックリン、ともに若くて将来が期待されるラップシンガーの暴力的対立。7年前にラスベガスで殺害された2Pacと、8年前にロサンゼルスで殺害されたBiggie(Notorious B.I.G.)のあいだの対立である。
実際、多くの新聞がこの過去に言及していたし、それゆえに、両者のあいだの休戦と和解のために動いた牧師(アル・シャープトン)もいる。右の写真は、そのような努力あって、和解を宣言したときの2名の姿である。彼らは、この事件の「反省」として、ハーレムのコミュニティに寄付をすることにしたと『ニューヨーク・タイムス』は告げている。
この事件に限らず、ラップのアクトには「暴力」が何かと取りざたされている。昨年のSource Awardでは、Dr. Dreがステージ上で殴打されるという事件があったばかりでもある。確かにギャングスタ・ラップは暴力を賞揚しさえしている。2Pacが流行させたことばThugh Lifeは、敢えて日本語に訳すならば「極道」ということになるだろう。
しかし、カントリー・ウェスタンだって、「暴力」と無縁ではない(映画『ブルース・ブラザース』ーー古典ですね、しかしーーを観ればよくわかる)。ただ違うところは、ヒップホップの場合、あめりにも多くの若い「タレント」が、傷ついてしまったということだ。
50 Cent と the Game の「和解」は、Biggieの8周忌の日に行われた。偶然であっただろうが、「極道」の「先輩」を、この2名も忘れてはいなかった。とにもかくにも、今回の事件、地元のメディアは大騒ぎしたが、1名が怪我をしただけですんだということを喜びたい。
Biggie、Big Poppaは天国でどう思っているだろうか…。
(この問題に関しては、6月にきちんとまとめたかたちで「論文」にする予定であった。その素材であるために触れるのを避けていたが、この事件があまりに大きな余波を引き起こしただけに、今日こうして簡単に紹介することにした。「論文」は、でき次第、http://www.fujinaga.org/に掲載したい)。